俺たちのガースー、丸腰訪米首脳会談の憂鬱【山本一郎】
【連載】山本一郎「コップの中の百年戦争 ―世の中の不条理やカラクリの根源とは―」
■アメリカの考える対中戦略は日本の国益を大きく損なう可能性も
そんな中で、日本は中国の隣国であり最大の貿易相手国として経済的に依存の度を深めていながら、民主主義陣営の東アジアの安全保障の一角として日米同盟を堅持する立場にあります。私も日米同盟を確固としたうえで日本の安全を守るのは大賛成ですが、一方で、アメリカの考える対中戦略に我が国の国益もろとも呑み込まれる可能性があります。
最大のものは、いまアメリカが進めている国際的なサプライチェーンの仕組みに我が国も組み込まれ、日本固有の問題が斟酌されない仕組みに乗っかった結果、日本の経済的立場が弱くなり国益を失うのではないか、と懸念されることです。
日本衰退論で見落とされがちなことですが、我が国は実はいまだ世界3位の経済大国であり、ひとつの法律体系で動く1億2,000万人の国民を擁し、世界でも有数の中小企業のネットワークを持つ高い経済複雑性を持つ経済です。日本経済衰退論は一面で事実ですが、一方で、在外資産の配当によって日本に流れ込むマネーによる経常収支の安定や、人口がそこそこ密集していることによる充分に高い地価、分厚い国民の金融資産に支えられた、小さな企業やフリーランスの創り出す経済の複雑性こそが、我が国の輸出産業の競争力を維持し、世界と戦える企業を作り上げていまなお高い経済力を維持できている原動力になっています。
◆世界首位を30年譲らないわが国産業の優位性 :ハーバード大学が高評価する日本のEconomic Complexity
他方、90年代以降の通貨安・ゼロ金利や過当競争による低賃金が国民全体を貧しくしている悪しき実態があり、これらがたいしたスキルを持たない多くの国民にとっては奴隷にも等しい劣悪な経済環境に置く副作用もあるため、豊かな日本という実感を抱けない日本国民にとって日本衰退論は我が身の貧困と重ねて理解されやすい特質はあります。
しかしながら、それでも安定した経済力と社会基盤を維持できているのは、競争力のある輸出産業がしっかりと外貨を稼いでくれている側面があるわけですけれども、問題はいま日米でも話され、国際的な潮流となっているカーボンニュートラルやSDGsといった、持続可能な社会を作るために、二酸化炭素のような温暖化ガスの排出を抑え、プラスチックのような生物分解性の低い素材の利用を控えたうえで、産み出すエネルギーを化石燃料から再生エネルギー・自然エネルギーへとシフトさせなければならないという点です。
単に二酸化炭素を出さないエネルギー源にしようという点で言うならば、天然ガス・LNGによる火力発電所への依存を減らし、原子力発電所を再稼働させたり新しく建設するなどして、フランスのように原子力発電の割合を増やすことが考えられます。ただ、これは先の福島第一原発事故以降、国民の原子力発電に対するアレルギー反応が強いうえに、経年的にどうしても発生する廃炉や核廃棄物処理を考えると、いわゆる「トイレなきマンション」状態となり、次世代の日本人に悪い影響を与えるとも考えられます。
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